金融機関のリスケ対応
融資は最後まで返済するのが理想です。といっても、世の中はすべて予定通り上手くいくと限りません。
頑張って事業経営してきたが、このままでは事業資金融資が返せなくなりそうだ!
今回は、事業資金融資が返せなくなったらどうするか?をテーマに、銀行員としての経験を交えお話ししていきます。
資金調達を検討中の人や、融資を利用中の人も、ぜひ参考にしてください。
■第1回 リスケ
冒頭で「返せなくなったら」と書きました。この返せないという言葉一つにも状況、つまりどのくらい切羽詰まっているのか?にはいろいろなパターンがあります。
「今まで通り、毎月50万円の返済は無理だけれど30万円なら返していける」とか
「元金返済は無理だけど、利息10万円だけなら払える」など。
こういった「〇〇なら払える」という状態で考えられる方法が「リスケ」です。
▲リスケとは?
銀行の事業資金融資では借入年数、金利、返済方法など融資の様々な要素を条件と呼んでいます。
返済が困難になった債務者から依頼があり、毎月返済を少なくするため借入年数を延長したり、元金返済を一時棚上げし利息払いのみにしたり、といったように対応することを「リスケ」と言います。
リスケはRESCHEDULE(リスケジュール)の略で、融資の条件を組み直すという意味です。
このリスケという言葉、もともとは銀行業界で使われる用語でしたが今では周知され、「スケジュールを組み直す」という意味のビジネス用語としても使われているので聞いたことのある人も多いでしょう。
なお、返済条件を変更するという意味で「条件変更」とも呼ばれます。
・どうしたらリスケできるのか?~リスケしてもらうための必須条件5選
リスケに代表される債務者の支援策は、金融円滑化法という法律により銀行に課せられた使命でした。
この金融円滑化法は既に終了していますが、監督官庁である金融庁からの指示もあり、銀行は引き続きリスケについて柔軟に対応しており、原則的にリスケを断わってはいけないことになっています。
原則的にと書いたのは理由があって、何が何でも断れないわけではないからです。
銀行が支援すべき相手なのか?もっと言えば「助ける価値があるか?」この点を判断し、判断結果によってはリスケしないという選択肢もあります。
銀行にリスケしてもらうための必須条件は次の3つで、以下それぞれ説明していくことにします。
<リスケしてもらうための必須条件3選>
- 事業を続ける意志はあるか?
- 返済が少なくなれば返していけるのか?
- 痛みをともなう覚悟はあるか?立ち直れるのか?
・事業を続ける意志はあるか?
困難な状況に陥った債務者を救済するのがリスケの意義です。したがって、事業を続ける意志のない会社を支援することはできません。とりあえずリスケしてもらって倒産を免れたなら、あとは1年以内に会社ごと身売りをしてしまえばいい、などと考えている場合、リスケはしてもらえません。
銀行では、この事業継続の意思について必ず尋ねられますので覚えておくと良いでしょう。
・返済が少なくなれば返していけるのか?
返済を減らしてもらえば、そのあと返済していけることが必須条件です。
救済とはいっても限度があり、例えば元金は棚上げできても、利息は免除できません。したがって利息払いだけにして払えないなら、リスケはできないのです。
銀行も企業であり、利息まで免除してしまうと銀行経営自体が危うくなってしまいます。上記した金融円滑化法施工前には利息免除も案として盛り込まれていましたが、この案は当時の銀行業界から猛反対を受け取り下げになったという経緯があります。
・痛みを伴う覚悟はあるか?立ち直れるのか?
この言葉は、抵抗勢力や既成概念をぶっ壊したがっていた首相がよく使っていた表現ですが、自社の経費削減やリストラなど「痛みを伴う覚悟」がなければリスケしてもらえません。
リスケをせず、一生懸命返済している他の債務者から見た時、リスケを頼んだ企業が何もせず助けてもらったと知ったら不公平に感じるでしょう。リスケしてもらうには、自分の身を切ることも辞さない決意とその具体策が必要になります。
この痛みを伴う覚悟を具体的に示す文書の作成が、リスケ審査では必須になっています。
「事業計画」「再建計画」といった名前で、具体的な経費削減やリストラ策と同時に、返済を減らしてもらった場合に、その浮いた資金でどうやって事業を立て直していくのかが盛り込まれていなければいけません。
つまり「助けてもらえば立ち直れます」という具体的な計画がなければリスケはできないのです。
ちなみにこうした事業計画を独力で作ることが難しい場合には、銀行に相談すれば作成に協力してくれます。これも監督官庁から指示されている救済策の一つですが、ここで注意すべきことがあります。
銀行に協力を依頼する場合でも、全く自分の考えが無くて計画作りを丸投げするような言動は絶対にしてはいけません。これでは上記した「事業継続の意思」を放棄したと言っているようなものです。
稚拙な文章でも、手書きでも構いません。自ら考えている再建への道筋を銀行に伝えることが大事です。
▲ずっとリスケしてもらえるとは限らない~まとめとして
救済策としてのリスケには、半年あるいは1年など期限が決められています。
例えばリスケして半年経過したら、原則的には返済を以前の状態に戻すよう求められます。もちろんまだ業績改善に至らなければ、もう一度リスケしてもらうよう頼むことはできますが、必ずしも銀行が応じてくれるとは限りません。その場合、再び事業計画が必要になります。
また期限が来るまでの間に延滞したり、業績が更に悪化したりして、もう一度リスケしても立ち直る見込みが無いと銀行が判断したら、つまり「もうこの会社は助からない」と余命宣告を受けてしまったなら、もう二度とリスケはしてもらえないでしょう。
リスケしてもらえなかった場合、別の結末が待っていますが、それは次回説明します。
リスケするか?ノンバンクで借りるか? ~銀行員目線で答えます
「リスケをするか?それともノンバンクで借りるか?」今回はこちらをテーマにしてお話ししていきます。
銀行員として私が考える答は次の通りです。
「銀行と付き合いを続けたいならリスケを選ぶべきです。しかし、資金調達のためにノンバンクで借りることも否定はしません。ただし、そのときはそれなりの覚悟も必要です」
リスケを利用すべきか、それともノンバンクで資金調達するほうがいいのか?それぞれのメリットデメリットを理解してもらうためにも「リスケとは?」「ノンバンクとは?」にも触れていきます。
実際に窓口で返済が困難になったお客様と向き合ってきた銀行員として、その銀行員目線で説明しますのでぜひ参考にしてください。
(*今回の記事は銀行員としての考えを述べたものであり、ノンバンクあるいは特定の企業を否定するものではありません。内容はあくまで参考としていただき、選択は個人の判断にお任せします)
リスケとは?ノンバンクとは?~比較の前に用語解説
「リスケ」「ノンバンク」 サイトで検索してもいろいろな表現があります。今回はおさらいの意味も込めて簡単に用語解説から始めます。
リスケとは?
「今までどおり毎月10万円の返済はムリ、でも5万なら返せる」
「今までのような元利返済はできないけれど、利息の3万円なら払っていける」
こういった最低限の支払まで返済を見直すことができるのがリスケです。
リスケはRESCHEDULE(リスケジュール)の略で、融資の条件を組み直すという意味です。
国が不況対策として打ち出した「金融円滑化法」にもとづいて、銀行が債務者を救済するために融資条件(借入年数、金利、返済方法など融資で決められた要素のこと)を変更するものです。
具体的には返済を減らすため期間を延長したり、元金返済を棚上げして利息支払だけにしたりします。
融資条件を変更することから金融庁や銀行では、「条件変更」「貸出条件の緩和」などとも呼びます。
ノンバンクとは?
ノンバンクとは、銀行のように預金受入はせずお金を融資する(与信業務といいます)業務だけをおこなっている企業です。お金を融資することを金融とも言いますので、その意味ではノンバンクも金融機関と考えられますが、正確に表現するならノンバンクは「貸金業法」で規制される金融業者です。
いっぽう銀行は「銀行法」で規制される金融機関です。(信金には信用金庫法があり、意味は同じ)
融資するお金はノンバンクが銀行から融資を受け調達する場合が主流で、こうした関係から銀行の子会社、グループ企業としてのノンバンクも多くあります。
銀行と付き合いを続けたいならリスケ!3つの理由
銀行、信金などの金融機関と付き合いを続けたいならリスケを選ぶべきです。銀行員としてそう考えるのにはいくつか理由があり、それがリスケのメリットでもあります。
<リスケを選ぶべき3つの理由~それがリスケのメリット>
- リスケは国の施策~銀行も基本的に「YES」
- 苦労もあるがいろいろと助けてもらえる~経営改善の支援
- リスケで辛抱していれば良いこともある~新規融資を受けられるかも
リスケは国の施策~銀行も基本的に「YES」
国の施策から始まったのがリスケです。金融機関は債務者(事業資金融資のある会社、個人事業主と住宅ローン利用者も含む)から頼まれた場合には、できる限り適切な措置をとるよう努めるという「努力義務」があります。努力義務とは、要するに国からリスケしろ!と命令されていることです。法律としての金融円滑化法はすでに終了していますが、金融庁はリスケ対応を持続するよう金融機関に対し求めています。ですから、リスケを頼めば基本的に断わられることはありません。しかしながら、国の施策で困っている債務者を支援するリスケなのですが、誰でもリスケしてもらえるというわけではありません。延滞が長期化しすぎて支払えるアテがない、業況の落ち込みが激しく改善の見通しがまったくないといった場合はリスケより廃業や、事業の精算をすすめられます。ノンバンク利用が問題になる場合もありますので、あとで詳しく説明します。
苦労もあるがいろいろと助けてもらえる~経営改善の支援
リスケする場合は、経費節減やリストラなど経営改善に向けた計画(事業計画、経営改善計画などと
言います)を作り、銀行に認めてもらわなくてはいけません。事業を続ける熱意があり、事業を立て直せる可能性がないとリスケしてもらえません。計画を考えることやリストラなど苦労もありますが、商談会に参加させてもらえたり、取引先を紹介してくれたりすることもあります。(しかも基本的に無料!)
リスケした債務者を立て直すのは銀行にとっても大事で、経営改善の支援をしてもらえることがあります。
リスケで辛抱していれば良いこともある~新規融資を受けられるかも
リスケをすれば毎月の返済が少なくなって楽になります。しかし原則リスケしているあいだは新規の融資を受けることはできません。返済ができないから返済を減らしている会社が、新規で資金調達しても返せるはずがないという考えです。
また、リスケは取引している金融機関すべて同時に実施するのが大原則です。A・B・C3つの銀行に融資があるとすれば、リスケする場合は全部いっぺんにリスケしなければダメです。AとB銀行は返済をゼロにしてもC銀行は条件が良いからそのままにする、などというのは絶対にAB銀行が認めません。また、日頃ライバル関係にある銀行同士でもリスケに関することだけは相互に情報交換します。ですから、リスケ中はどこの銀行からも融資を受けるのは原則ムリでした。ところが、最近は信用保証協会の特別融資や銀行独自の融資でリスケ中でも新規に融資を受けられるようになってきました。辛抱していれば、こうした新規融資で資金調達できる可能性もあります。
まとめ~ノンバンク利用よりリスケをおすすめするその他の理由
ノンバンクなら、リスケ中でも融資を受けることは可能です。もちろん個別の審査次第ですが、一般的に金融機関より審査が柔軟で、スピードも早いのがノンバンクの特徴です。しかし審査が柔軟(ゆるい)ほど、金利などの条件は不利になる傾向があるので利用は慎重に検討すべきだと思います。
そして、上記したようにリスケ中に他で借りたことが銀行にバレたら問題になります。ノンバンクで借りた場合ももちろん同じです。しかも銀行ではノンバンクのことを一律的に「高利借入」という見方をしていますので、銀行がその債務者を見る目は厳しくなり、最悪の場合リスケを取り消されてしまうかも知れません。
誤解のないように繰り返しますが、ノンバンクを否定するつもりはありません。しかし、リスケを選んだならノンバンクの利用は避けるべきで、どうしてもそうしなければならないときは、このように「それなりの覚悟が必要」となることをぜひ覚えておいてください。