開業間もない事業者への資金調達のアドバイス
タイトルからこの記事を見ているということは、銀行で事業資金融資を受けたことがない人、あるいは融資を受けようと検討していろいろ調べているのかもしれません。
そこで今回は、創業したばかりの人へ銀行員が資金調達のアドバイスをします。
といっても、裏技や抜け道ではなく、融資審査をする銀行員の立場から
「こうすれば融資を受けやすくなるかも」
「融資を受けるために、いまから準備してほしいこと」
といった解説です。
この記事を読んでなるほど、と少しでも参考になれば幸いです。
■事業資金融資を受ける3つのポイント
銀行から事業資金融資を受けるには、審査を審査しなければいけません。
決算書や印鑑証明などの書類だけではなく、これからお話しするポイントを押さえておく必要があります。
<事業資金融資を受ける3つのポイント>
- 計画、計画、とにかく計画
- 専門家の支援は有効、丸投げはNG
- 最後は熱意!
▲1.計画、計画、とにかく計画
融資を受けるには計画が重視されます。
これは融資を受けるというだけでなく、事業を進めるうえで必要不可欠なものです。
初めての行き先で電車やバスに乗るとき、時刻表や乗り換え経路を確認しますし、車なら地図やナビを見なければ目的地にたどり着けません。
事業も同じで、計画がなければ目をつぶって走るようなものです。
銀行で多くの事業資金融資を審査してきた経験から申し上げると、計画なしの企業、つまり目をつぶって走っている会社が、実は多いのです。
「目先の仕事に追われ計画など作っている時間がない」
「カッコつけて計画など作らなくてもすべて頭の中に入っている」
こういった経営者もまた実に多く、それ自体間違ってはいませんが、銀行で事業資金融資を受けようと考えているなら、それではだめです。
「事業計画」「再建計画」「設備計画」など、とにかく計画と名の付くものを、しっかり紙ベースで作り、いつでも銀行に提出できなければ、「わが社は無計画です!」と宣言しているようなものだからです。
事業計画といっても、そんなに難しくはありません。
作成する際のポイントは以下の3つを押さえれば大丈夫です。
また、自分で作るのが大変なら専門家に頼むことも可能です。
(この点はあとで詳しく解説します)
<事業計画 3つのポイント>
- 返済原資の捻出方法
- 保守的な予想
- 理念、理想をアピール
・ポイント1.返済原資の捻出方法
「借りたお金はこうやって返しますよ」と盛り込むことが一つ目のポイントです。
事業計画の多くは、
- 5年程度の期間を設定し(計画期間、ゴールの設定)
- どうやって売り上げを達成するか?(売上対策)
- どうやって儲けるか?(利益の確保方法)
- 誰がなにをするか?(担当者、責任者の明確化)
というような、いわゆる5W1Hを盛り込んでいる形式が一般的です。
返済に充(あ)てることができるお金を返済原資、そして作り出すこと、生み出すことをもっと生々しく捻出(ひねり出す)と銀行では表現します。
融資したお金は返済してもらわなければいけないので、どうやって返済していくか?を銀行は重視するのです。
・ポイント2.保守的な予想
売上や利益は「超」がつくほど保守的にしたほうがベターです。
確固たる自信があり、売上や利益の確保が間違いなく達成できると思っていても、計画では超保守的に数値予想をしておくべきです。
例えば
「5年で売り上げプラス30%は間違いない」なら、プラス15%にとどめておく
「毎年100万円以上の利益はカタい!」と思うなら、50万円にしておく
もともと控えめに予想しておけば、アテが外れた時のリスクも少なくなるからです。
ちなみに銀行では、事業計画の数字を8掛け(80%、つまり1億とあれば8千万円)など、割り引いて見る場合が多いです。
これを「売上にストレスをかける」と表現しますので、参考に覚えておいてください。
・ポイント3.理念、理想をアピール
銀行は公共性、公益性といった使命があり、そこでこうした言葉が大好きです。
また会社には理念、理想といったものが必要だと銀行は考えます。
いわゆる「社是」「社訓」といったものになりますが、これを言えない、というより考えたこともない経営者が多く、これでは銀行に信頼されません。
記事を読んでいるあなたが経営者で、心当たりがあるなら今からでも遅くありません。
理念、理想をすぐに考えましょう。
「わが社はこの製品開発により、地域の発展に貢献していく」
「わが社の通信事業により、地域の防犯面が大幅に向上する」
考えればすぐ思い浮かぶはずです。創業間もない人ならなおのこと、事業を起こしたきっかけを忘れるはずはないはずですから。
理念や社是を聞かれ「えーと・・・」では、融資を受けるのは難しいでしょう。
また、間違っても「会社を作ったのは金儲けのためです」(間違いではありませんが)だけで終わらせてはいけません。
▲専門家の支援は有効、丸投げはNG
銀行員は税理士、会計士、行政書士など専門家のサポートを有効だと考えています。
プロの指導、サポートがあるから安心できることや、プロが付き合っているのである程度信用できるとも考えられるからです。
・計画を読まずに提出した経営者
例えば事業計画も、経験やノウハウのある専門家に頼めば、費用はかかりますが適したものを作ってもらえます。
ただし、丸投げはかえってマイナスになりますので注意が必要です。
創業間もない人で、素晴らしい事業計画を作ってきたので感心して質問したところ
経営者は全く答えられませんでした。
決してイジワルしたわけではありません。
私は、銀行員として決算書や事業計画書を数多く見て、それなりに良否を判断できるようになりました。そこで、内容が良いと感じれば素直に伝えますし、良いからこそもっと聞きたくなるのです。
しかし、その経営者は答えられませんでした。
専門家に事業計画を丸投げしていたのです。しかも、丸投げだけならまだしも、自社の事業計画なのに一読もせず銀行に提出したことがわかりました。
このような姿勢では、融資を受けることはできません。
・うるさい専門家こそベスト
銀行員として、顧客だけでなく専門家も数多く見てきましたが、うるさい人ほどいい仕事をしてくれます。
たとえば税理士や会計士なら、費用に応じて資料を作るのは当たり前で、そこまでの仕事しかしない人は、事業計画を頼んでも「それなり」のものしか作れません。
経営方針や事業運営のPDCAにまで口出ししてくるような人こそ、かけがえのない助言者だと思います。
そうした熱意あるプロは、ときに耳が痛いことも言ってきますし、年齢から父母のように叱ってくれるくらいがむしろ理想だと銀行員は感じます。そんな人が作る計画なら、きっと熱がこもった、銀行を説得できる力を持つクオリティになるでしょう。
▲最後は熱意!~まとめとして
事業計画と理念理想があれば、融資審査もスムーズに進みます。また専門家に頼んだとしても、計画をしっかりと自分の言葉で語れるなら、見込みは高まると思います。
しかしながら、融資審査は多角的に判断するので、すべてうまくいくとは限りません。最後に決め手となるのは熱意です。
熱意といっても精神論、根性論では説得力に欠けてしまいます。
「最後まで頑張って、いざという時は自分一人だけでも仕事を続けます!」
これではむしろ逆効果です。
おすすめなのは、「頼まないこと」です。
融資してください、お金を貸してくださいでは断られれば終わりです。
そうではなく、銀行がわが社を支援しないのは、地元にとって大きな損失だと、それくらいの気概は示してもいいと思います。
そして、その熱意を裏付けるしっかりした計画があることも、もちろん大事です。